柔整療養費の出来高払いを皆で守ろう! †
元厚生労働省療養指導専門官 上田孝之
はじめに †
私たち柔道整復師の保険請求は療養費の出来高払いとなっています。負傷部位ごとに、あらかじめ厚労省保険局長通知により算定基準上の金額が決まっていて、これに施術を行った施療料等と後療料と温罨法料そして電療料を積み上げたうえで、施術の実日数をかけた額でもって請求しています。これはやればやっただけ収入に直結するとても分かりやすい�爐いだ�度�爐任后�
医療費全体を取り巻く情勢 †
しかし、増え続ける国民医療費(2005年度概算医療費が前年度比3.1%増の32兆4千億円で過去最高を更新)を適切に抑制するために、財政諮問会誌などの議論におきまして、例えば保険免責制や総枠管理制などの大ナタを振るう改革案が出されたところでした。結果としては与党自民党も厚労相も反対ということで、今般の医療制度改革では導入されませんでした。このことは喜ばしい限りですが、導入が見送られただけで、この前11月2日の参議院厚生労働委員会でも10月31日に財制審がまたもや改めてこの保険免責制導入を議論していたことに対して、自民党の先生が不快感を示されていましたね。柳澤厚労相は明確な賛否は言わなかったところですが、いずれ近い将来にこの議論が再燃することでしょう。つまり、なんとしても増え続ける医療費を何とか少しばかり抑制する必要があるということです。
すでに始まっている包括化 †
医科の世界では、特に整形外科の分野において診療報酬の定額化・包括化がどんどん導入されています。今般、リハビリテーションの実施についても日数でガードをかけられましたし、医療を取り巻く情勢は確実に定額化・包括化の導入へと進んでいく方向が明らかです。これが求めるものは「何回やっても金額は同じ」一定基準を超えたなら保険部分は一律カットというものです。
療養費における定額化・包括化 †
柔道整復療養費にもすでに定額化は導入され、5部位以上は4部位までに含まれるという言い回しにより実質請求できません。また3部位目と4部位日は逓減の名の下に実質目減りされた額しか請求できません。今後想定されるのは、定額化の強化と逓減率の強化がそろそろ限界に達してきたことを理由に、療養費の完全包括化(業界では広く�爐泙襪瓩瞭各��爐噺討屐砲隆躓,膨匹す�まれる可能性が大きいです。これを何としても回避せねばなりません。柔道整復療養費のまるめ方式には、いくつかの方策とその組み合わせが考えられます。
1. 日ごとに定額
一日一回の額を、例えば1,200円と確定する。何部位やってもこの額であります。
2. 月ごとに定額
月の請求額を日数に関係なく、例えば10,000円と確定する。何日何部位やってもこの額であります。
3. 月内における回数枠を決める
すでに医科では広く導入されていますが、例えば月のうち1回〜5回までは所定金額の100分の100、6回〜10回までは所定金額の100分の80、11回〜15回までは所定金額の100分の50、16回を超える部分は100分の20を支給するなどです。
4. あらかじめ負傷名でも定額を明示する
5. これらを単独で行うことも、複数組み合わせることでの導入も可能。
いずれにしても現行の出来高払い請求額を大幅にかつ自由に削減していくことが可能となる、とても恐ろしい制度であります。
結果として広まらなかった現行完全定額化 †
定額化といえば、すでに現行の取り扱いのもとでも「完全定額化」は導入されています。これは、一日に保険請求を1,200円に限定して、5部位以上施術した部分と3部位以上で逓減率がかかって親臨されている部分について、まるまる全額算定した場合の金額との差額を患者から�狷段未糧駘僂猟Ъ�がとして請求しても良いことになっています。この場合はこの�狷段未糧駘僂猟Ъ��爐鮃圓Δ箸いΔ海箸鬚△蕕�じめ地方社会保険事務局長と都道府県知事に届け出ておく必要があります。
しかし、実際この制度で保険請求している先生はほとんどいません。つまりここで私が言いたいことは、保険外の部分をどんなに認知されたとしても、実際患者には請求しづちいということなのです。
定額高にかかわらず不利になる理由 †
読者の先生方におかれては、「例えば日額1、300円と決まれば、自分は1部位と2部位請求がほとんどだから、結果的にはいまよりも収入が増えてラッキーだ。」とおっしゃる方もいることでしょう。なるほど、すべて2部位請求としても、(470+75+30)x2=1、150円ですからね。
しかし、日額定額であっても、先に述べたような「回数枠」を組み合わされることにより、療養費の実質的請求金額はいかようにでも小さくすることができ得ることになってしまいますよ。
出来高払いを続けられない理由を行政に渡してはならない現行の出来高払いは、私たちの柔道整復師の諸先輩方が長年尽力されて出来上がった貴重な財産であります。これを必死になって守り抜かなければなりません。まるめの導入は、結果としては、健康保険制度の療養費からの柔道整復術の撤退を意味するのと同時に、私たち柔道整復師の主たる収入が断たれるということをも意味します。私は心配でなりません。柔整療養費の算定基準は法令ではなく単に厚労省保険局長通知です。行政の局長通知一本でまるめが行われる可能性があるのです。行政としては「現行の出来高払い制では、いろいろ問題が多くて困る。ついては問題解決のため、まるめを導入させていただきたい。」とこう来るのだ。今私が一番心配しているのは、全身マッサージをして何でもかんでも4部位請求する者や近接部位の算定方法を理解せずに本来2部位請求でガードがかかっているものを3部位で請求し始めている実態であります。
前者は最近でも中国人が関与した事件で6、000万円の不正請求があったところですし、後者は「負傷が同時でなければ近接部位にならない」などと誤った解釈が横行し始めていることです。これを解決するには�爐泙襪疇各��爐靴�方策がない!と国は声高に要求を突きつけてくることでしょう。ここで重要なことは、行政や保険者にあげあしを取られないように一枚岩のような理路整然とした保険請求をしているのだという説明ができるかどうかにかかっています。近接部位の考え方ひとつとっても全国一律な運用がなされない、できないということをことさら強調され、「解決にはまるめしかない』と行政にもっていかれそうな気配を強く感じます。私の不安が単なる�犁�憂�爐暴�わることを願わずにはいられません。
おわりに †
そういえば、平成16年5月27日「早稲田東洋医学研究所」社長森侃二(もりかんじ)ら計4名が逮捕された柔道整復療養費詐欺事件もまさに今般の東京都練馬区の「やわら整骨院」と同様、無資格者の中国人らにマッサージ行為をさせ、その分の費用を柔道整復術療養費支給申請として保険者に請求し、何と12億円もの療養費をだまし取ったのでした。このことについては、国や保険者に対しまして、次の乱点を明らかにしていただく必要があると私は考えますとともに、私がかねてから主張している、不正請求額を補填するための、柔道整復師全体における「供託金制度」の導入が今求められているのではないかと思料するところです。
1. 当該事件発生の事実関係の実態及びその原因
2. 柔道整復審査委員会の審査機能が何故発揮されずに見過ごされたのかの理由
3. 柔道整復審査委員会自体に請求額の減額又は不支給等の、保険者が決定すべき査定権限が付与されているかどうか
4. 森侃二及び早稲田東洋医学研究所関連での療養費不正請求の総件数、総支給済額及び不正請求にかかる返還命令金額
5. 不正請求にかかる施術管理者たる柔道整復師全員の氏名、年齢及び住所
6. 1で特定された返還命令金額に対する、実際に返納された返納済額
7. 5で特定された者にかかる療養費の受鱒委任払いの取扱い中止年月日
8. 不正請求の被害を受けた保険者数
ちなみに、最近私のところに寄せられる近接部位の算定方法についての、私の通知解釈を披露いたしますので、参考にしていただければ嬉しいです。
おしまいに、再度声を大きく繰り返します。
��みんなで出来高払いを堅守しよう。まるめ導入を全カで阻止しよう!��

■上田孝之氏略歴
1958年8月 北海道函館市生まれ
1984年3月 日本柔道整復専門学校卒業、同年柔道整復師登録、社会保険庁運営部企画課計画班主査、社会保険庁運営部企画・年金管理課運営企画室主査、厚生省保険局医療課療養指導専門官、厚生労働省保険局医療課療養指導専門官、厚生労働省東海北陸厚生局健康福祉部社会保険課長補佐、同局上席社会保険監査指導官等を経て、2006年厚生労働省を退官。
上記文章は、からだサイエンス社発行「からだサイエンス2006年12月号」に寄稿されたものですが、上田孝之氏ご本人よりSQSにも寄稿されたものです。
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