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保険免責制が私たちに及ぼす影響について

元厚生労働省療養指導専門官 上田孝之

今般の医療制度改革では見送られた「保険免責制」について考えてみよう。財務省や経済財政諮問会議では、財政上の見地からこれを手放すわけがなく、保険免責制の再論議が開始されることとなる。医療機関をはじめ、草の根の市民団体に至るまで“導入絶対反対”で徹底抗戦することとなる。野党は当然、与党においても理解者を少しでも多く獲得し、免責制再提出の完全阻止に向け頑張っていくこととなるのであるが、果たして、私たちの業界はそのための準備をしているのであろうか。
私は講演や諸会議でことある毎に保険免責制の問題点を糺し、みんなでこのことに強く反対していくことの必要性を説いてきたところであるが、いまいち反応が鈍い。既にご承知のとおり、保険免責制は低額な医療は保険で給付されないことを目的とした仕組みである。例えば免責額1,000円と決めたなら、1回の医療費から1,000円マイナスした額の3割相当額を求め、それに免責額1,000円を加えて患者負担額とするものである。一部負担金の割合を3割のままに据え置きながら、結果として実質的患者負担を4〜5割に引き上げることができる。財政悪化の状況に応じて、免責額をどんどん引き上げればいいのであるから、最初は目立たないように200円とか300円から開始して、前回案に出ていた500円そして1,000円にと、財政上の不足予定額に見合うだけ、免責額を決定すればよいことになる。単純計算でも医療費全体で2兆円〜4兆円の抑制効果があるという。とても危険で恐ろしいことだ。
高齢者の過度な受診の抑制効果が大きく期待されるこの手法は、医療機関における医科の診療のみならず、柔道整復療養費にも大きく影響が出る、というより、私たちの施術料金のように後療料プラス温罨法・電療料加算にみられるように、1回の施術料金が低額で患者の負担金も350円とか480円とかのレベルにある額から、免責制が導入されるとこの患者負担が一気に2倍近くなるのであるから、施術回数的にみて、むしろ私たちの接骨院・整骨院のほうが免責制導入に伴う痛手は強烈であるといえる。保険免責制は確実に医療費の抑制に繋がることから、財務省は本気だ。とても怖いことだ。にもかかわらず、みんなはおとなしすぎるのではないか。受領委任払いの撤廃論議では皆その危機意識があり、既得権益の存続を強く求める動きが出来るのであるが、この新たな問題である保険免責導入についても声を大にして強力に導入反対に向け取り組んでいかねばならない。医師会等の医療本体の各団体が頑張ってくれるからとか、所詮は導入など無理なことで心配ない安心せよ、などと他力本願ではいけないのだ。
国民皆保険制度を堅守するためにも、保険免責制についての警戒の取り組みをしていこう。


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